サマリー
子どもを持つ親にとって、教育費が気になるのは日本もフランスも同じ。私 が住むフランスでも、新年度が始まる時期や中学生・高校生が次の進路を決める時期になると、家計にかかる負担を見積もりながら気を揉む方々は少なくありません。
しかし、「子ども1人あたりにかかる教育費は、オール国公立で約1,000万円、オール私立だと約2,000万円」ともいわれる日本と比べると、フランスの教育費はレベル違いに安く、私自身も驚くことが多々あります。今回は、フランスの教育費事情とその平均額を紹介します。
フランスでは学校の制服が無料!?
まず、フランスでは制服代がかかりません。基本的にフランスでは制服がなく、小・中・高校とも私服で通学をしているためです。 しかし、一部の公立校では制服が導入されており、無料で支給されています。
これは2024年度から始まった「試験的」な制服制度によるものです。「制服があったほうが生徒同士の一体感が高まる」「服装の違いによる格差(イジメ)を軽減できる」など、学校生活でのさまざまな課題解決を目的とした政府の試みとして、自治体の任意で導入されました。試験導入2年目にあたる2025年9月(フランスの学校は新学期が9月始まり)からも「試験的」な制服制度は継続されており、これにより全国的に制服を導入するかどうかの結果を出すとの方針です。
自治体による違いはあるものの、制服代は替えも含めた一式(年間分)で平均約200ユーロとのこと。1ユーロ=165円として計算すると、約3万3,000円相当です。国と(導入した)自治体の共同負担となり、現時点では家庭負担はありません。
つまり、無料で支給してもらえるため、「子どもが通う学校で制服が導入されることによって家計の被服代が減るかも」と喜んでいる親もいる様子です。子どもの被服にかける費用は家庭によっても異なりますが、年間200ユーロの支出を抑えることができるとすれば、ありがたいことでしょう。
一方で、2024年度に試験的に導入したところ、自治体の支出が大きく膨らんだため、2025年度には制服をとりやめた自治体もあるようです。
こんなに違う!フランスと日本の学校教育費
ここで、フランスと日本の学校教育費の平均額を紹介します。どちらも公立校の平均額ですが、どれだけ違うか確認してみましょう。
※ Ministère de l’éducation nationale, de l’enseignememt supérieur et de la recherche「 L'éducation nationale en chiffres, édition 2024」および文部科学省「子どもの教育費調査(令和5年度)」より著者作成
| フランス | 日本 | |||
| 年間 | 総額 | 年間 | 総額 | |
| 幼稚園 (3年間) | € 627.9 (103,604円) | € 1883.7 (310,811円) | 84,597円 | 253,791円 |
| 小学校 (仏:5年間/日:6年間) | € 611.52 (100,901円) | € 3057.6 (504,504円) | 120,158円 | 720,948円 |
| 中学校 (仏:4年間/日:3年間) | € 742.56 (122,522円) | € 2970.24 (490,090円) | 186,414円 | 559,242円 |
| 高校 (3年間) | € 931.32 (153,668円) | € 2793.96 (461,003円) | 351,452円 | 1,054,356円 |
| 15年間 合計 | € 10705.5(1,766,408円) | 2,588,337円 | ||
※ Ministère de l’éducation nationale, de l’enseignememt supérieur et de la recherche「 L'éducation nationale en chiffres, édition 2024」および文部科学省「子どもの教育費調査(令和5年度)」より著者作成
日本での教育費相場は学習塾や習い事などの「学校外活動費」を含めるのが一般的ですが、今回はフランスのデータと揃えるために、これらの費用は含めず、学校教育にかかる費用および給食費のみとしています。その結果、日仏間の15年間の学校教育費の差は約82万円(※2)であり、日本のほうが高いという結果になりました。
※1 フランスのデータは生徒1人あたりにかかる年間教育費平均額および家計負担分を元に算出、日本のデータは学習費のうち学校教育費と学校給食費の合計額
※2 フランスのデータは1ユーロ(€)=165円(2024年の平均レート)として換算
フランスは大学(高等教育)の学費も安い
次に、フランスと日本の国公立大学にかかる学費平均額を紹介します。フランスでは国外からの留学生も多いため、フランス国籍(EU圏・スイスを含む)の学生と、それ以外の留学生の学費もあわせて紹介します。
| フランス(※2) | 日本 | ||
| フランスおよびEU圏・スイス国籍の学生 | 左記以外の学生 | ||
| 入学料 | € 178 (30,616円) | € 2,895 (497,940円) | 225,808円 |
| 年間授業料 | 536,340円 | ||
| 学士課程修了までの総額 (仏:3年間/日:4年間) | € 534 (91,848円) | € 8,685 (1,493,820円) | 2,371,168円 |
※ CAMPUS FRANCE「 Le coût des études supérieures en France」および文部科学省「2024年度 学生納付金調査結果(大学昼間部)」より著者作成
フランスの学士課程は基本的に3年制であり、4年制の日本に比べて1年間短いといった事情もありますが、年間の登録料(日本の入学金+授業料に相当)を見ても、学費の安さがわかります。
これは、国が多額の補助をしているためで、EU圏(スイスを含む)の学生に対しては、1人あたり平均で年間約1万ユーロ、圏外の学生に対してはその約3分の1の額が国費から出資されているようです。
なお、私立は教育機関による金額差がありますが、年間3,000~1万ユーロ。1ユーロ=172円として換算すると51万6,000円~172万円と、公立大学と比べて高額です(※2)。
ただし、日本では、私立大学入学者の初年度学生納付金等の平均額(令和5年度)が学部によって約119万円~約482万円であるため、私立大学においてもフランスの学費は日本と比べて安いといえるでしょう。
※3 フランスのデータは2025年度の金額
※4 フランスのデータは1ユーロ(€)=172円(2025年9月始のレート)として換算
フランスと日本の学校システムの違い
フランスの教育費の状況をご覧になって、日本との違いに驚かれた方もいるでしょう。これは、国や自治体による手厚い補助のおかげでもありますが、日本とは異なる部分も多い学校システムの影響もあるかもしれません。
日本とフランス、どちらが良い・悪いということではないですが、私が驚いたフランスの学校システムをいくつか紹介します。
教科書
フランスでは日本のように生徒は教科書をもらえません。小学校では先生が自作、または本やインターネットからコピーしたプリントを配布することが多いようです。中学校では教科書を学年の始めに貸与してもらい、学年の終わりに返還します。そのため、破けたりボロボロになったりした教科書に当たることもあります。
高校では電子教科書を使用するところが多いようです。なお、私の息子が通う高校では入学時に1人1台タブレットを無料配布してくれ、それに全教科分の電子教科書をダウンロードして授業で使います。
体操服
冒頭で、フランスでは基本的に制服がない旨お伝えしましたが、体操着もありません。体育の時間は、各生徒は学校に着てきた服装のままで授業を受けています。
教科
国語(フランス語)、算数、理科、社会など、基本的な教科は日本と同じですが、家庭科など日本にあってフランスにはない教科もあります。
また、小学・中学では音楽の授業はありますが、教科書がないため先生の好みに応じて歌謡曲などをみんなで歌う・・・といった授業がほとんどです。日本の学校のように、鍵盤ハーモニカやリコーダーといった楽器もほとんど使わないようです。
給食
給食は、決まりではなく、申込み制です。基本的には、お昼ご飯は昼休み時間に家に帰って食べ、昼休み終了時間までに学校に戻って午後の授業を受けます。そのため、幼稚園や小学校では、昼休みに保護者が迎えに行き、また学校に連れて行きます。中学校からは生徒自身が学校と家を往復します。
家庭の事情や本人(または保護者)が希望する場合には、給食を食べることができますが、学年の始めに申込みが必要です。なお、給食代は保護者の世帯所得で変わります。
水曜日
水曜日は、幼稚園と小学校は学校がありません。つまり、学校に行くのは月・火・木・金の週4日のみ。中学・高校は、水曜日は基本的に午前授業のみです。
バカンス
フランスの学校はとにかくバカンスが多いです。9月に学年が始まり、6月末(年によっては7月初め)までの1学年の間、6週間ごとに2週間のバカンスがあります。そして、学年が終わって次の学年が始まるまでは約2カ月の夏休みです。
以前、記事「三度のメシよりバカンス好き?! フランス人に習う旅行費用の作り方と抑え方」で紹介したフランス人のバカンス好きは、このような学校システムのあり方から養われているのかもしれませんね。
学校教育費は安いが、学校外教育にお金がかかる場合も
前項で、教育費負担が軽減されると考えられる主な理由を紹介しましたが、その分、音楽、絵画、スポーツなど、いわゆる学校外教育に費用をかける家庭もあるようです。たとえば、水曜日や土曜日は学校がないため、子どもを習い事やスポーツに通わせる家庭は多いです。なかには、午前・午後で異なる習い事に通うなど、1日のうちに複数の習い事を掛け持ちさせる場合も。
習い事が増えるほど費用も多くかかりますが、保護者のなかには学校で学べない分を学校外で学ばせることの必要性を感じている人も少なくありません。
また、2週間や2カ月のバカンスを利用して子どもを留学させる傾向もあります。フランスの方々も、日本の皆さんのように、子どもの教育に熱心で、しっかりと費用をかけている家庭もあるということでしょう。
これも子どもの将来を思うからこそでしょう。この記事をお読みいただいた皆さんも、将来、お子様がフランスに留学したいと希望することがあるかもしれません。フランスは学費面では安心ですが、生活費など他の費用が多くかかる可能性があります。日本での教育費準備に合わせ、留学費用の準備もしっかり進めてみてはいかがでしょうか。
※本文は、著者の調査・経験に基づき一般的な内容を掲載したものです。また、各種制度、政策および投資環境については執筆時点のものであり、将来変更となる可能性がございます。資産運用においてはお客様ご自身の収入や貯蓄、生活スタイル等に基づいてご判断ください。