政策の混乱と変化を乗り切る

  • 不確実性:⽶国の政策決定と財政の⽅針をめぐる不確実性の⾼まりが、今後12カ⽉間の経済と市場の⾒通しに⼤きく影響すると考えています。地政学的なリスク、⾼⽔準の債務、財政余地の制約が経済の脆弱性を⾼めています。
     
  • 分断:主要経済国の景気は底堅く推移していますが、⽶国は減速が⾒込まれ、欧州は緩やかな成⻑、インドは⾼成⻑が続くと予想されており、各国の景気の道筋は異なります。成⻑率、インフレ率、財政動向の差異が分断を加速させ、特に⾦融政策で顕著になるでしょう。
     
  • 適度なリスク志向の配分:世界経済と⾦融市場の再編により、株式のローテーションは欧州および新興国市場へ継続すると⾒込まれます。同時に、短期債券が政策⾦利低下の恩恵を受ける中、投資家が⻑期債券により厚いリスクプレミアムを求めていることを背景に、イールドカーブは急勾配化(⻑短⾦利差が拡⼤)する可能性があります。
     
  • 下⽅リスク耐性と分散:アムンディは適度なリスク志向を維持しつつ、インフレおよび為替リスクに対するヘッジを推奨しています。⻑期的なテーマに注⽬し、実物資産やオルタナティブ資産への選択的な配分が、短期的なボラティリティや資産クラス間のパフォーマンス相関の乱れを乗り切るうえで効果的であると考えています。


欧州を代表する資産運⽤会社、アムンディは、2025年6⽉17⽇に2025年下期の世界経済⾒通しを発表しました。

⽶国の貿易、外交政策に対する姿勢は、現政権固有のものではなく、今後も続く構造的な変化であることを⽰唆しており、政策⽴案、投資、今後を⾒通すにあたり、世界経済と⾦融市場の再構築には、慎重さが求められます。

予測困難な政策決定は、経済および市場にとって不利な状況を⽣み出していますが、新たな投資機会も存在します。不確実性が⾼く軟調な成⻑⾒通しにもかかわらず、主要経済国および企業業績はこれまでのところ堅調さを⽰しています。クレジット市場の世界的な⾒通しは引き続き良好であり、企業収益の低迷は予想されていません。

アムンディのグループCIOであるヴァンサン・モルティエは、次のように述べています。

vincent mortier

『国債市場は、債務の増加とインフレ懸念の⾼まりによって動揺しており、ボラティリティは引き続き⾼い状況が続くと⾒ています。投資家は⻑期債券に対してより⾼いリターンを求める傾向が強まり、利回りは魅⼒的に推移するでしょう。重要なのは、⽶国から欧州や新興国債券へと分散投資を⾏うことです。』

アムンディ・インベストメント‧・インスティテュートのヘッド、モニカ・ディフェンドは、次のように述べています。

『予測不可能な政策決定、底堅い企業業績、新たな構造的変化はありますが、中央銀⾏による利下げ⽅向は、世界の株式市場に投資機会をもたらすでしょう。アムンディでは、欧州の防衛費拡⼤、⽶国の規制緩和、⽇本のコーポレート‧ガバナンス改⾰、『メイク‧イン‧インディア』イニシアチブなどのテーマに注⽬しています』

monica defend

メインシナリオ:インフレ圧⼒を伴う成⻑鈍化※1

2025年年始から世界経済の成⻑⾒通しは悪化しており、⽶国の貿易関税に関する不確実性は継続する⾒みです。関税はインフレを促進し、実質⾦利の上昇以上に経済成⻑に悪影響を及ぼすと考えています。アムンディの基本シナリオでは、政策の不確実性が時間とともに落ち着き、サプライチェーンの再配置がより秩序⽴った形で進み、⽶国の平均関税率は現政権就任前より15%⾼い⽔準で推移すると想定しています。世界経済の成⻑は⼤きな後退を経験せず、減速する⾒込みです。
 

  • アムンディは現在、2025年と2026年の世界経済成⻑率をそれぞれ2.9%と2.8%と予想しており、今後2年間のGDP成⻑率は先進国市場で1.3%、新興国市場で3.9%とみています。今後数カ⽉で、新興国市場と先進国市場の成⻑率の差は、過去の平均をやや上回る⽔準で安定すると予想しています。現在、特に欧州でディスインフレの傾向が続いていますが、⽶国ではインフレリスクが⾼まっています。
     
  • ⽶国経済は、不確実性の⾼まりと関税が需要を抑制し、経済成⻑率は2023-2024年の3%近くから2025-2026年には1.6%に減速し、潜在成⻑率を下回ると⾒込まれます。これは経済的損失と⼀時的なインフレの再燃を引き起こす可能性があり、これにより企業の利益率が圧迫される恐れがあります。財政措置と規制緩和は限定的な緩和効果しか期待できません。⽶国の予算案には2つの⼤きな懸念があります。第⼀に、⽶国の債務は今後10年間で3兆から5兆ドル増加すると予想されています。第⼆に、歳出削減は主に低所得層に影響を及ぼす⼀⽅、税制改⾰は⾼所得層に恩恵をもたらすため、総消費はさらに減少するとみています。2025年には⽶国の財政⾚字は6.5%近くに達すると予想しています。景気減速が差し迫っていることを考慮し、FRBは2025年後半に3回の利下げ、2025年末までに政策⾦利は3.50%に達すると⾒込んでいます。
     
  • 欧州では、貿易ショックの影響にもかかわらず、経済成⻑およびインフレは好ましい⽅向に推移しており、楽観的な⾒⽅が広がっています。新たな貿易同盟に向けた積極的な動き、貿易摩擦の緩和、利下げ、ユーロ⾼は内需と⺠間の資⾦需要の緩やかな回復を後押しするでしょう。ECBは2025年末までに利下げをさらに2回実施、政策⾦利を1.50%として成⻑の下⽀えを図ると予想しています。また、ユーロ圏と英国における2025年と2026年のGDP成⻑率はそれぞれ0.8%近辺と予測しています。さらに、欧州資産はより⾼い安定性、今後の改⾰や投資拡⼤に対する期待、ユーロ⾼といった構造的な追い⾵により、今後も投資妙味があると考えています。
     
  • 新興国市場は、全体的にプラスの経済成⻑とインフレの動向、緩和的な⾦融政策、中間層の拡⼤から恩恵を受けています。⽶国の経済的優位性の後退とドル安も、新興国市場には相対的に有利に寄与しています。セクター別関税はリスク要因ですが、地域密着型サプライチェーンの拡⼤は新興国にとってポジティブです。インドとASEANは、こうした構造的変化のメリットを享受し、引き続き成⻑の主要な牽引役となっています。2025年と2026年のGDP成⻑率は、インドが6.6%と6.4%、中国が4.3%と3.9%と予測しています。
     
  • アムンディのメインシナリオに対する主なリスク‒下振れシナリオは、貿易戦争の激化や⽶国の成⻑鈍化、財政⾚字拡⼤など、地政学的イベントや政策決定によるスタグフレーション環境が引き⾦となる可能性があります。逆に、⽣産性の向上によるディスインフレの傾向が⾼まる政策や動きが出てくるとメインシナリオから上振れる可能性もあります。
     

投資への影響:グローバルな再編における投資機会

アムンディは、景気サイクル後期が最も可能性が⾼いシナリオであり、適度なリスク志向を維持しています。しかし、資産配分を考える上では、地政学リスクとインフレリスクの⾼まりにより⼤きく分断された世界、という別のシナリオの可能性も踏まえて検討することが重要であり、⽶ドル、株式、債券の相関関係が変化する可能性も考慮に⼊れる必要があります。

アムンディの投資⾒解では、財政リスクの⾼まり、債券発⾏の増加、⾦利変動により、ベンチマークのイールドカーブのさらなる急勾配化を予想しています。さらに、企業の利益成⻑率は6%に減速すると⾒込んでいますが、減益までにはいかないと考えています。

アムンディのダイナミックな資産配分は、市場混乱から⽣じる機会を捉え、様々な下⽅リスクに耐えられるように設計されています。これには、分散化された株式戦略、債券のデュレーションとカーブポジションの機動的な管理、地域にかかわらずより底堅い内需ストーリに着⽬した地域分散、およびヘッジの強化が含まれます。為替市場では、⽇本円とユーロが最も魅⼒的な通貨と⾒ています。スイスフランは既に⾼値圏にあり、⼀⽅でスカンジナビア通貨とオーストラリアドルは相対的により魅⼒的な⽔準にあります。
 

  • 債券‒アムンディは、より急勾配のイールドカーブと⾦利変動の拡⼤を予想しているため、⽶国からグローバル市場へ分散投資する柔軟なアプローチを選好しています。成⻑とインフレの良好なバランス、及び⽶ドル安の恩恵を受ける可能性がある欧州および新興国の国債を選好しており、デュレーションについては機動的な対応を採ります。クレジット市場では、質の⾼いクレジットを重視し、⽶国よりも欧州の投資適格債を選好しています。ハイイールド債については中⽴で、年末にかけてスプレッドが上昇する可能性があるとみています。セクター別では、⾦融セクターと劣後債を選好します。銀⾏の劣後債は、最も興味深いセグメントの⼀つになり得ます。
     
  • 株式‒ ⽶国市場からの資⾦流出が続く⾒込みで、先進国株式の下期リターンは1桁台前半程度にとどまると予想しています。グローバル株式では、バリュエーションや利益率に加え、欧州の防衛‧インフラ関連、AI、⽶国の規制緩和、⽇本のコーポレート‧ガバナンス改⾰、および「メイク‧イン‧インディア」といったテーマに関連するセクターを選好しています。欧州中型株、⽶国の均等加重株、⽇本の⾼配当株をポジティブにみています。セクター別では、内需‧サービス中⼼のビジ
    ネスを中⼼にシクリカルとディフェンシブの組み合わせを選好します。エネルギーや素材セクターよりも⾦融セクターと通信サービス‧セクターを選好、ヘッジとして公益セクターを挙げています。
     
  • 新興国市場‒新興国市場資産は下期にポジティブなモメンタムを⽰しています。新興国債券は、ハード通貨と現地通貨の両⽅で利回りが先進国債を上回り、⽶国債利回りの変動に対するバッファーとなるため魅⼒的です。新興国株式は、世界経済の再編に適応する国々の構造変化から恩恵を受ける⽴場にあります。業績の底堅さに加え、内需、防衛、ITといったセクターを選好しています。
     
  • 分散投資とヘッジ‒インフレリスク(スタグフレーションまたはハイパーインフレ)、⽶ドル安、相関関係の変化は、⻑期的なパターンとして浮上しており、ヘッジが必要です。⾦とコモディティはインフレリスクのヘッジとして有効です。安定したキャッシュフローという点ではインフラおよびプライベート‧デット投資が魅⼒的です。プライベート資産への資⾦流⼊は続いており、選別が重要になります。通貨分散も特に⽶ドル以外の投資家にとって⼤変重要です。

※アムンディ・リサーチ・センターのサイトに遷移します。英語でのご案内となりますので予めご了承ください。


※1 予測は、2025年6月17日時点の情報と政策措置に基づいています。