サマリー
27年勤めた外資系ブランドを50代半ばにリストラで退社。その後、資格を取り独立して働く中で、50代以降にいきいきと新しいステージを歩み始めた方々にお会いしてきました。そこで気づいた共通点があります。それは「何かを始めた」ことではなく「何かを手放した」こと。人はつい「次に何をするか」を考えがちですが、自分らしい次の人生は、手放すことで初めて見えてきます。筆者自身の体験を交えてお話しします。
「まだ先」という思い込みを手放す
人生100年時代と言われますが、健康で自分の意志で動ける時間は想像以上に限られています。厚生労働省の統計によれば、平均寿命と健康寿命の差は男性で約9年、女性で約12年。[注1]つまり人生の最終章には、誰かの助けなしには過ごせない期間が長く続くのです。
出典:厚生労働科学研究「次期健康づくり運動プラン作成と推進に向けた研究」(令和4年値)
図1をご覧ください。現役時代とほぼ同じ長さの老後の生活が待っています。にもかかわらず、多くの方が日々の忙しさを理由に、「どう生きるか」の設計を先送りしています。60歳や65歳でリタイアしてから「さて、何をしよう」と考え始めるのでは遅いのです。趣味や起業、資格取得、ボランティア、孫育てなど、セカンドライフの選択肢は多様ですが、どれも助走期間が必要です。
図1
出典:厚生労働科学研究「次期健康づくり運動プラン作成と推進に向けた研究」をもとに筆者により作成
資産形成と同じように、生き方の設計にも時間がかかります。50代のうちから「自分はこれからどう生きたいのか」を考え、小さく動き始めることが大切です。退職してからではなく、今から。「まだ先のこと」という思い込みこそ、最初に手放すべきものです。
肩書きと過去の人脈を手放す
筆者自身、54歳で外資系企業のPR・マーケティング職を世界規模のリストラで失いました。27年間積み上げた実績も人脈も、「今日であなたの机はもうありません」というデンマーク人上司の一言ですべてリセットされました。天職と信じていた仕事を失い、当初は大きな喪失感で一か月ほど何も手につきませんでした。 でも、私はそこで前職の名刺も人脈も一切使わないと決めました。転職活動もパートもせずに、雇用保険取得の1年間で中小企業診断士やFPの資格を取得し、独立を目指しました。ずっとフルタイムで築いてきた我が家のライフ&マネープランでは、パートは選択肢にありませんでした。資格を取ってもすぐに仕事はありませんでしたが、資格者向けの勉強会などで人脈と学びを深め、2011年に独立し、これまで350社以上の中小企業の経営支援に携わってきました。
図2 自分マップ
出典:筆者により作成
時間はかかりましたが、前職を超える収入も得ることができました。コロナ禍でオンライン化を図るのに新たな学びや投資も必要となりましたが、肩書きを手放したことで初めて、前の会社の定年の年を過ぎても、年齢や経験の制限なく「私個人」として仕事の幅を広げ、自分の思うままに人とつながれるようになったのです。 50代以降に輝いている方の多くが、同じ経験をしています。過去の成功体験にしがみつくほど、次の一歩は重くなる。肩書きを手放すことは、怖いことではなく、自由に自分の可能性を広げることでもあるのです。
体・心・お財布の「こうあるべき」を手放す
セカンドライフを豊かに過ごすために必要な健康は、体・心・お財布の3つです。どれか一つが欠けても、バランスは崩れます。特に現役時代に第一線で活躍していた人ほど、退職後に行き場をなくし「自分は誰の役にも立てない」と心の不調に陥りやすい。お金と健康な体があっても、生きがいや社会とのつながりを失えば、心の健康は保てません。生きがいを持つことが、心と体の健康につながるのです。
「夫はこうあるべき」「妻の役割はこう」という固定観念も、手放すべきものです。定年後に夫婦の関係がぎくしゃくする家庭は少なくありません。長年の役割分担にこだわらず、互いに自立し助け合える関係を築き直すことが、心の健康の土台になります。夫婦それぞれが自分の人生を主体的に設計し、パートナーとして支え合う。その姿勢が、人生後半の充実につながります。
私自身、リストラで職とお金を失っても「これからも自分の力で稼いでいける」という自信を得たことが、何よりの財産になりました。稼ぐ力への確信は、貯蓄の額そのものより大きな安心をもたらしてくれます。お金を「守る」だけでなく「生み出せる自分」でいること。それが本当の意味でのお財布の健康ではないでしょうか。
手放した先に見える景色
人生後半を前向きに生きている人は、共通して「持ちすぎていたもの」を降ろしています。「まだ先」という先送り、過去の肩書きや人脈への執着、そして「こうあるべき」という常識──この3つを手放すことは、何かを失うことではありません。むしろ、自分らしい人生の主役として次のステージに立つための準備です。 経験を活かし、社会とつながり、稼ぎながら豊かに生きる。それは決して特別なことではなく、誰にでも開かれた道です。その第一歩は「何を始めるか」ではなく「何を手放すか」を自分に問うことから始まります。荷物を降ろした先には、きっと新しい景色が広がっています。あなたが今、手放せるものは何でしょうか。